うつ病、実は発展途上国にも多い?
うつ病や、不安による精神障害は、長い間西洋の悩み、裕福な人の病であると見なされてきた。しかし、新たな研究により、うつ病は貧しい国々でも同じぐらいあることであり、その割合はある年において最大20%であることが分かった。
Depression and anxiety have long been seen as Western afflictions, diseases of the affluent. But new studies find that they are just as common in poor countries, with rates up to 20 percent in a given year.
International Hearld Triune より。
この IHT の記事はインドのゴアという地域のメンタルヘルス事情を報告しているのですが、その中で、貧困がうつ病や不安による精神障害の原因になるという公衆衛生当局の話や、途上国ではうつ病が見逃されているという London School of Hygiene and Tropical Medicine(ロンドン大学衛生学熱帯医学大学院)の Vikram Patel 博士の話が引用されています。
日本でも、少なくともネット上では、うつ病は途上国にはないとか、中にはうつ病は贅沢病だという声があります。そして、途上国の人は毎日食べていくだけで精一杯の生活をしているからうつ病にはならないとか、先進国はストレスが多くうつ病になりやすいとか、もっともらしい理由付けが行われています。
どちらの言うことが正しいのか、分からなくなってきました。心情としては、国際的な高級紙(と言っていいのでしょうか)である IHT の言うことの方を信じたくはなります。しかし、たとえ高級紙であっても、記事の内容を鵜呑みにするわけにはいきません。IHT に出ていた貧しい国々でも多かったという「新たな研究」(new studies)にしても、出典が明記されていません。
どちらが正しいのか判断する能力を持ち合わせていない自分が悔しいですが、なにはともあれ、「貧しい国には、うつ病なんてない」というよくある声には、少し疑ってかかることにします。
[新聞記事の出典]
◇ Kohn, D. (2008, March 11). Psychotherapy for all: An experiment in India. International Hearld Triune . Retrieved March 11, 2008 from
http://www.iht.com/articles/2008/03/11/
healthscience/11psych.php?page=1
心の病気は、貧困よりも不幸?
明らかに、メンタルヘルスは健康の中核であるが、それだけではない。メンタルヘルスは、私たちの全体的な幸福の中心をなしている。例えば、うつと貧困、このうちどちらがより不幸の原因となるだろうか。答えは、うつである。貧困とうつとの相互関係を考慮に入れても、うつは、所得よりも、より多くの幸福の変化を説明する。[36] したがって、西欧社会においては、心の病気は、おそらく不幸の最も大きな単一の原因である。
Clearly, mental health is a key part of health, but it is more than that. It is central to our overall happiness. For example, we might ask, Which causes much more misery: depression or poverty? The answer is depression. It explains more of the variation in happiness than income does, even after we allow for the interrelation between poverty and depression. [36] So mental illness is probably the largest single cause of misery in Western societies.
貧困よりも、うつの方が不幸だというようなことが書かれてあります。
この説明についている 注36 によると、出典は、英国国立児童発達研究(UK National Child Development Study)です。幸福を計量的に分析しています。幸福というものは数字で計ることができるのでしょうか。
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これは英国の研究であり、日本に直接当てはめることはできないかもしれません。ただ、気になる研究です。
誰か知人にこころの病気を抱えている人がいる場合、「こいつ、自分が不幸だなんて甘えたこと言ってる。世界には経済的に恵まれないもっと不幸な人がたくさんいるのに」などと考えるのは慎重にした方がいいかもしれません。GDPが高い国に住んでいるから幸せか、所得が高いから幸せかというと、必ずしもそうではないかもしれません。
また、最近日本で貧困の問題がクローズアップされるようになりましたが、こうした研究を知ると、心の病気の方もクローズアップされてしかるべきかもしれないとも思えてきます。
ただ、こころの病気を抱えている当事者は、これはあまり気にしない方がいいかもしれません。自分は不幸だと思うと、ますます不幸になってしまいます。
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幸福の研究というと、一見すると新興宗教か何かの話のように思えますが、きちんと学問的に研究されているようです。
ちょうど今年1月には、英語圏で幸福の研究に関する本が2冊出版され、The Economist などが書評を書いています。日本では、『幸福の政治経済学』という本が知られているようです。
◇ The Geography of Bliss
◇ Against Happiness: In Praise of Melancholy
◇ 幸福の政治経済学
[文献]
◇ R, Layard. (2005). Happiness: Lessons from a New Science. London: Penguin Books Ltd.
メンタルヘルス経済学

私も詳しくはないのですが、メンタルヘルスのコスト、治療の費用対効果、労働市場への影響等が研究されているようです。
例えば、イギリスでは6人に1人が欝や慢性不安障害にかかっているのですが、そのうち何らかの治療を受けたのは4人に1人にすぎないそうです。残りの治療を受けていない人のうち、少なくとも半数は750ポンド(約17万円)のコストで治るのですが、治療を受けないため、かえって社会的にコストがかかっています。心の病気で働くことに支障が出て、就労不能手当を受け取ることになるのです。イギリスでは現在、心の病気で就労不能手当を受け取っている人が100万人いるそうです。[注]
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メンタルヘルス経済学の研究は、欧米で盛んです。
ヨーロッパでは、Mental Health Economics European Network(メンタルヘルス経済学ヨーロッパネットワーク)が存在し、ノーベル経済学賞受賞者を多数輩出したロンドン・スクール・オブ・エコノミクスなどがこれに参加しています。ちょうど明日12月13日には、ベルギーのブリュッセルで、メンタルヘルス経済学のシンポジウムが開かれるそうです。
アメリカにも研究者が存在し、メンタルヘルス経済学の専門書も出版されています。このエントリーの左上にある緑色の本がそうです。Amazon のなか身!検索で内容を見ることができるので、興味のある方はご覧になってみてはいかがでしょうか。
日本ではこのあたりの研究はほとんど進んでいないようです。医療経済学という分野もあるのですが、こちらも欧米ほど発達していないのではないかと思います。日本では実証研究に使えるデータが集めにくいからなのか、医療制度がよく機能してきた歴史があるからなのか、メンタルヘルスの問題が欧米ほど重要でないからなのか、理由は知りません。
[注]
The Depression Report: A New Deal for Depression and Anxiety Disorders, The Centre for Economic Perormance's Mental Health Policy group, June 2006.
正しい診断よりも、お金が大事な医師
こうなると、正しい診断よりも利潤の追求を優先する医師が現れるかもしれません。どうするかというと、必要以上に治療を受けさせるわけです。例えば、本当は薬など必要ない患者に、「薬飲まないと大変なことになりますよ〜」と嘘をついて薬を処方し、稼ぐということです(薬価差益が大きかった時代に、「薬漬け」が問題になりました)。
なんだ、このブログの管理者は、医師の方にずいぶんと失礼なことを言っているな!とお怒りになった方もいらっしゃるかもしれません。しかし、これは、「供給者誘発需要仮説」または「医師誘発需要仮説」と呼ばれる、医療経済学の重要な論点です。
■ 情報の格差
医師と患者の間には情報量に格差があります(情報の非対称性)。
医師は病気やその治療法については大変精通しています。しかし、患者はそうではありません。患者は医師の言うことに大人しく従うほかないのです。医師は嘘をついても患者にはばれにくいですから、自分の利益にかなうように患者を誘導したいと考えても不思議ではありません。
補足・心理カウンセラーの待遇はどうなってるんだ?
(もとより、伝聞をもとにしたりと、正確さを欠く記事でしたが)







