「一次性ひきこもり」

「一次性ひきこもり」と「二次性ひきこもり」


○  「一次性ひきこもり」primary hikikomori / primary social withdrawal
→ 精神疾患がない引きこもり

○  「二次性ひきこもり」secondary hikikomori
→ 何らかの精神疾患がある引きこもり

という分類があります。このように分けようという立場があります。

※ primary social withdrawal に対して、secondary social withdrawal とは、あまり言いません。

引きこもりに関する論文で、この分類を目にすることがあります。特に英語の論文では、引用されることがやや多い気がします。英語の引きこもり論文は数は少ないものの発表されていて、その著者は日本の研究グループの場合もあれば、海外の研究グループの場合もあります。

一次性ひきこもりの概念を提唱したのは、愛知淑徳大学の諏訪真美教授らです(諏訪ら、2002)。同教授らが2013年に発表した英語論文では、一次性ひきこもり概念の重要性が3点挙げられています(Suwa ら、2013)。

(1)引きこもり病理の原理を、他の精神疾患に関連したひきこもりのみ考えることで理解することはできないため
(2)一次性ひきこもりの精神病理学に基づいて、今日の日本における社会学的問題をよりよく理解することができるかもしれないため
(3)精神疾患があるのとないのとでは、治療アプローチが異なるため

一次性ひきこもりは、どれほど存在する?


諏訪教授らによる研究では、愛知県精神保健福祉センターに親が来談した27例の引きこもりのうち10例が、どの精神疾患の診断基準にも該当しない一次性ひきこもりと判定されたというものがあります(Suwa ら、2007)。

そういえば、世界精神保健調査日本調査の一環として行われた無作為抽出の疫学調査では、引きこもり期間中に何らかの精神疾患の診断基準を満たした例は19例中8例でした(小山ら、2007)。裏を返せば、諏訪氏らが言う一次性ひきこもりにあたるものは19例中11例ということになります。

その一方、引きこもり者の大半は何らかの精神疾患の診断基準に該当したという、複数の精神保健福祉センター来談者を対象とした調査結果があります(近藤ら、2010)。同センターに来談した184例のうち、情報不足などのために診断保留とされた35例を除くと、149例中148例に診断が確定したそうです。これだと、一次性ひきこもりはほとんど存在しないことになります。なお、この調査結果は影響力が大きく、厚生労働省の引きこもりガイドライン(『ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン』←PDFへのリンク)に反映されています。

また、日本、米国、韓国、インドでの引きこもり国際共同調査でも、同様に何らかの精神疾患の診断基準に当てはまる例は36例中31例と大半でした(加藤ら、2015)。ただし、診断が一切つかなかった引きこもり例が5例あって、それは全て日本の引きこもり例だったという結果が得られています。この国際共同調査では、日本の引きこもり例は11例でした。

このように、診断がつかない「一次性ひきこもり」がどの程度の割合で存在するのか、私にはもう一つ分かりません。あと、国際共同調査で、日本の引きこもり者にだけ診断がつかなかった例があったという報告は、諏訪教授らが言う「一次性ひきこもりの精神病理学に基づいて、今日の日本における社会学的問題をよりよく理解することができるかもしれない」という観点からは興味深いです。

なお、この一次性ひきこもりという概念、英語版 Wikipedia の項目 Hikikomori には、primary hikikomori として言及があって感心します。論文引用状況から見ても、どちらかと言えば英語圏で知られる概念かもしれません。

リンク


↓ 5ページに、「一次性ひきこもり」の特徴として、5項目が挙げられています。PDF(517KB)。
◇ 諏訪真美(2005)「青年期の社会的ひきこもり:その背景となる病理の鑑別」『医療福祉研究』1、78-84。 (新しいウィンドウで開く

文献


◇ 加藤隆弘、Teo, R.A., 館農勝、Choi Y.T., Balhara, Y.P.., 神庭重信(2015)「社会的ひきこもりに関する日本、米国、韓国、インドでの国際共同調査の紹介」『臨床精神医学』44(12)、1625-1635。

◇ 小山明日香、三宅由子、立森久照、竹島正、川上憲人(2007)「地域疫学調査による『ひきこもり』の実態と精神医学的診断について:平成14年度~平成17年度のまとめ」『こころの健康についての疫学調査に関する研究 平成18年度総括・分担研究報告書』119-127 https://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NISR00.do

◇ 近藤直司、清田吉和、北端裕司、黒田安計、黒澤美枝、境泉洋、富士宮秀紫、猪俣夏季、宮沢久江、宮田量治(2010)「思春期ひきこもりにおける精神医学的障害の実態把握に関する研究」 齋藤万比古『思春期のひきこもりをもたらす精神科疾患の実態把握と精神医学的治療・援助システムの構築に関する研究』67-86。 http://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do

◇ 諏訪真美、鈴木國文(2002)「『一次性ひきこもり』の精神病理学的特徴」『日本精神神経学会誌』104(12)、1228-1241。

◇ Suwa, M., Hara, K. (2007). "‘Hikikomori’among Young Adults in Japan: The importance of differential diagnosis between primary Hikikomori and Hikikomori with High-functioning Pervasive Developmental Disorders." 『医療福祉研究』3, 94–101.

◇ Suwa, M., Suzuki, K. (2013). “The phenomenon of hikikomori (social withdrawal) and the socio-cultural situation in Japan today”, Journal of Psychopathology, (19), 191-198. http://www.jpsychopathol.it/wp-content/uploads/2015/07/Sopsi-3-13.pdf

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