英国NEETはサッチャリズムが生んだものなのか否か(2)~サッチャーの民営化

毎週金曜日は、イギリスNEETのお話です。

イギリスNEETはサッチャリズムが生んだかものかどうか検討するために、とりあえず、まずはサッチャー政権でどのような政策が講じられたかを見ていこうと思っています。

ただし、内政面に絞ります。なぜならば、例えば、サッチャーがゴルバチョフを「彼とは、一緒に仕事ができる」と評価したとか、IRAの撲滅を宣言したら殺されそうになったとか、こういった外交や国防関係のお話はイギリスNEETと関係なさそうですので。

今回は、サッチャーによる民営化の話などをしています。 * * * * * * * * * *

1 サッチャー政権の概要

サッチャー政権は保守党を基盤とする政権で、1979年5月から1990年11月までの3期11年にわたって続きました。

☆ 第1次サッチャー内閣(1979年5月~1983年6月)
☆ 第2次サッチャー内閣(1983年6月~1987年6月)
☆ 第3次サッチャー内閣(1987年6月~1990年11月)

79年、83年、87年に総選挙があり、サッチャー率いる与党・保守党が勝利を収めました。その都度組閣が行われたですが、それらを上のように第○次サッチャー内閣と呼んでいます。

2 時代背景

☆ 経済の停滞
☆ 国民の勤労意欲の低下 
☆ 活発な労働運動
☆ 財政赤字
☆ インフレ

3 サッチャー政権の主な政策(内政限定)

(1) 民営化の推進

 1) 民営化とは何か

サッチャーといえば、なんといっても民営化です。民営化の定義はさまざまですが、次のものは概ね間違いないでしょう。

「(1)資産の売却、すなわち、以前政府によって購入された株式公開会社の売却と民間企業が保有する国有企業の株式の売却(2)規制撤廃または国家による独占の緩和(3)中央や地方政府、また、例えばNHS(国民保健サービス)のような他の政府機関が以前組織内で行っていた業務の外注(4)民間部門における諸サービスの提供に対する依存の強化、例えば老人ホームなど(5)社会政策における民間部門の関与の促進(6)特に福祉サービスにおける、補助金の削減、利用者に対する負担金の値上げまたは導入(7)公営住宅の売却」((1) asset sales, including the sale of public companies previously bought by the government, and the sale of state share holdings in private companies; (2) deregulation or the relaxation of state monopolies; (3) the contracting out of work previously done in house by central or local government, or other organizations such as NHS; (4) increased reliance on the private provision of service, such as residential homes for older people; (5) the encouragement of private sector involvement in social policy; (6) reducing subsidies and increasing or introducing charges, particularly in welfare services; and (7) the sale of council houses)[1]

このうち、特に重要な(1)と(7)について詳しくご説明します。

 ■ 資産の売却、すなわち、以前政府によって購入された株式公開会社の売却と民間企業が保有する国有企業の株式の売却

サッチャーの民営化の中でも、最も重要なものが政府資産の売却です。1980年から1991年までの間に売却された資産の総額は4,500億ポンド(現在1ポンド≒200円。ということは、90兆円?しかし、当時の為替レートは知らん)にもなります。OECD諸国でもいくつかの国で民営化が行われましたが、イギリスのこの売却額は、その中でも突出しています。[2]

以下は、政府保有株式の放出によって民営化された主な国有企業の数々です。だいたい民営化された順に並べてあります。

British Petroleum(石油)、British Aerospace(航空)、Cable & Wireless(情報・通信)、Amersham International(製薬)、British Coal(石炭)、Britoil(石油)、Associated British Ports(港湾)、British Shipbuilders(造船)、Jaguar(自動車製造)、British Telecom(情報・通信)、British Gas(ガス)、British Airways(航空)、Rolls Royce(自動車製造)、British Airports Authority(空港)、British Steel(製鉄)、National Bus Company(バス)、Thames Water Authority(水道)…etc.

ご覧の通り、とてつもない数に上り、その業種も実に幅広いです。「ロールスロイス(Rolls Royce)」なんてのもありますね。「英国石油(British Petroleum, BP)」など、大企業も名を連ねています。ほとんどの国営企業が民営化されたわけです。逆に言えば、それだけ多くの国有企業があったということですね。自動車メーカーが国営というのは、日本では考えられません。

 ■ 公営住宅の売却

これは、RTB(Right to buy)と呼ばれる政策です。公営住宅の売却ですが、売却価格は市場価格よりも30%低めに設定されます。個人の持ち家を促そうという狙いもあったのです。

1980年に1980年住宅法(Housing Act 1980)が議会を通過し、RTBが実施されることになりました。これにより、非常に多くの公営住宅が売却されました。その数、1995年時点で、150万にものぼると計算されています。

 2) 民営化のねらい

国有企業を売却して民営化することにより経済効率を高めるとともに、財政収入を増やす効果が期待できます。また、国有企業が株式会社に転換されると、株式保有が促されます。


とりあえず、今回はこのあたりにとどめます。続きは来週のお楽しみということで。今回のシリーズは、少し長丁場になるかもしれません。なお、人気blogランキングにクリックしていだけると、励みになります。

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[豆知識]

キース・ジョセフ(Keith Joseph)(1918-1994)

サッチャーを主に政策面で支えた政治家で、サッチャリズムを語るうえで重要な人物です。しかし、日本では、一般の知名度は驚くほど低いですね。サッチャーは知らない人いないのに。

[関連記事]

☆ 英国NEETはサッチャリズムが生んだものなのか否か(1)

[注]

1 H, Young. One of Us: A Biography of Margaret Thatcher. Basingstoke: Macmillan. 1989, Marsh, "Privatization," p.463.
2 B, Stephens. "Prospects for Privatisation in OECD Countries," National Westminster Quarterly Bank Review, May 1992, pp. 2-22.

[そのほか参考にしたもの]

■ 本

☆ 森嶋通夫『サッチャー時代のイギリス』岩波新書、1988年12月。
☆ ケネス・ハリス著、大空博訳『マーガレット・サッチャー-英国を復権させた鉄の女』読売新聞社、1991年8月。
☆ Harvey Feigenbaum, Jeffery Henig and Chris Hamnett. Shrinking the State: The Political Underpinnings of Privatization. Cambridge: Cambridge University Press. 1998.
☆ David Parker, David Saal. International Handbook on Privatization. Cheltenham: Edward Elgar Publishing. 2003.

■ ウェブサイト

☆ Margaret Thatcher Foundation, http://www.margaretthatcher.org/ (last visited April 7, 2006)
☆ Wikipedia, http://en.wikipedia.org/ (last visited April 7, 2006)



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