なぜあの人たちは無気力なのか−学習性無力感

「ニートは無気力じゃない!」 という記事をずいぶん前に書きましたが、私が知るひきこもり(ニート)の若者には、確かに無気力としかいいようもない人も中にはいました。ニートばかりでなく、私が姉妹ブログで扱っている場面緘黙症の人にも、無気力の人を見かけたことがあります。

ここでいう無気力というのは、深刻なものです。将来の展望に希望を失い、うつの傾向すらあります。近寄りがたいほど暗い雰囲気を漂わせていて、とにかく自分は何をやっても駄目なのだという、自分に対する深い絶望感を抱えているのです。

ニートの中には「今の自分は勝っていると思います」と自信満々に語る人もいるそうですが、ここでいう無気力な人たちは、そんな自信すら失ってしまっているのです。

心理学では、用意がいいことに、こういった人たちを説明する理論が既にあります。「学習性無力感」(learned helpless)というものです。驚くなかれ、人は学習して無気力になることがあるというのです。
* * * * * * * * * *

■ 学習性無力感とは何ぞや

学習性無力の理論は、以前「心理カウンセラーなんかに、考え方を変えられてたまるか!(怒)」でご紹介した、セリグマン(Seligman)らによって展開されてきました。

学習性無力感とは、自分の努力によってはどうしようもない出来事を経験した末、自分の未来は自分で切り開くことはできないという教訓のようなものを「学習」してしまい、やる気を失って情緒的にも混乱してしまう、そういうものです。こうなると、自分の状況を変えようと努力することはなくなってしまいます。

例えば、次は保険会社に採用されたベンという若い外交員の例です(Peterson al., 1995)。訳の品質は保証しません。
ベンは(中略)初出勤の日からずっと憂鬱だった。彼が契約を断られたときはいつも、これは自分には才能がなくて、好かれないからだと思った。そうした後は、彼は新たなつてを作る前に、一日中よくぶらぶらして過ごした。ベンが売約を取り付けたとき、これは顧客がその日に感情が高ぶっていたに違いないと考えた。彼は仕事を辞めたいと思っていたが、別の仕事をどこで見つければよいか分からなかった。

Ben (snip) has been miserable since his first day on the job. Whenever he was rejected, he believed it was because he had no talent and was unlikable. He would then dawdle for a whole day before making a new contact. When he made a sale, Ben thought that the customer must have been feeling flush that day. He wanted to quit but didn't know where he could get another job.

契約が獲得できないのであれば、商品の説明の仕方が悪かったんじゃないかなどと考えればいいのにと私は思うのですが、ベンのように自分に才能がないからだとか考えてしまっては、どうしようもありません。前者のように考えれば、努力によって改善する余地があるとなりますが、後者の場合、才能がないなら努力しても仕方がないとなってしまいます。

投票率の低下傾向を学習性無力感で説明する人がいます。どうせ1票ぐらい投票しても結果は変わらないのなら、選挙になんて行っても無駄だということです(ちなみに、私は選挙で棄権をしたことがありません)。

これらは我々の日常でもよくありそうなことです。非日常的なものだと、監禁、戦争、飢饉、干ばつなどで、学習性無力感に陥ることがあります。

■ 就職に失敗し続けたニート

ニートが増加したのは、かつての就職超氷河期で面接で落とされ続けて、意欲を失った若者が増加したからだと説明されることがあります。これも、学習性無力感の理論が背後にあるのかもしれません。

不採用通知をたくさん受け取ると、自分の人間性そのものに問題があるのではないかだとか、自分は何をやっても駄目な人間ではないかだとかと思ってしまうことがあるのかもしれません。

■ 学習性無力感の治療

面白いことに、どんなに挫折を経験しても、なかなか学習性無力感に陥らない人もいます。こうした人たちは、どんな問題が起きても、結局は自分の努力次第でなんとかなるという楽観主義の持ち主であることが多いです。

学習性無力感に陥った人たちの治療は、こうした楽観主義者のように、自分の人生は自分でコントロールできるのだと教えることが主眼になります。このあたりのことは、先日「心理カウンセラーなんかに、考え方を変えられてたまるか!(怒)」でお話した、「統制の所在」(Locus of Control)とも関係します。

■ 駄目な奴は何をやっても駄目なのでは

しかし、私は思うのです。駄目な奴は何をやっても駄目なのでは?

先ほど、ベンという若い外交員の例をお話しましたが、彼は本当に才能がなかったのかもしれません。就職で失敗続けて無気力ニートになった若者も、本当に才能がなかったのかもしれません。

自分は無力なんだと考えるのは、そう「学習」したからであって、それを認知行動療法家ごときが「あなたが無力というのは間違いだ」と決め付けるのは、いかがなものかと思うのです。自分のことは自分が一番よく知っています。

私などは、いくら英語を勉強しても、ちっとも上達しないんですよ。一昨年、新聞に掲載されていた大学入試センター試験の英語の問題を解いて自分で採点してみたところ、ショックを受けました。高校時代に比べて点数が下がっていたのですから。私は高校卒業後、大学受験時とは比較にならないほどの勉強量をこなしてきました。勉強方法も、改良に改良を重ねました。しかし、英語の力は全く伸びていなかったのです。こうなると、どれだけ英語を勉強してもこれ以上は上達しないのではないかと考えるのが自然です。

人気blogランキングへ
(じゅ、順位が…。誰か、クリックして!)

※ 注意。私は心理学はまだ勉強中の身です。

[学習性無力感を学ぶ上でためになりそうな本]

学習性無力感―パーソナル・コントロールの時代をひらく理論
C.ピーターソン S.F.マイヤー M.E.P.セリグマン

関連商品
激動社会の中の自己効力
つよい子を育てるこころのワクチン―メゲない、キレない、ウツにならないABC思考法
心理測定尺度集 (3)
心理測定尺度集〈2〉人間と社会のつながりをとらえる“対人関係・価値観”
心理測定尺度集〈1〉―人間の内面を探る“自己・個人内過程”
by G-Tools

[関連記事]

★ 心理カウンセラーなんかに、考え方を変えられてたまるか!(怒)
★ 続・なぜあの人たちは無気力なのか−学習性無力感
★ ニート、ひきこもりと自信、自己効力感

[注と参考にしたもの]

まだスタイルの書き方が分かりません。

★ Hayes, N. (2003). Teach yourself psychology. (3rd ed.). Chicago: McGraw-Hill, 92-94.
★ Learned helplessness. (2006, May 8). In Wikipedia, the free encyclopedia. Retrieved June 1, 2006, from http://en.wikipedia.org/w/index.php?title=Learned_helplessness&oldid=52221465.
★ Petersen, C., Maier, S.F., & Seligman, M.E.P. (1995). Learned helplessness: A theory for the age of personal control. New York: Oxford University Press, 7-8.



Comment

[355] がんばれ

おはつです。
このブログはいつも愛読しています。
なんか、ものすごくまっとうでリアル、ほっとします。

[356] ひらめんこさん、はじめまして。

応援メッセージ、ありがとうございます。「愛読」なんて言われると、恐縮してしまいます。
今回は、なんだか救いようのないことを書いてしまいした。クライアントの治療をすることが仕事の認知行動療法家や心理カウンセラーとしては、クライアントの潜在力を信じるしかないのでしょう。

[452]

>駄目な奴は何をやっても駄目なのでは?

英語を幾ら勉強しても出来ない→英語の才能がない…という考え方は(どうやって客観的に英語の才能が全くないと証明できるのかは知りませんが)、ある意味正しいです。しかし、その事実から「何をやっても駄目」という方向に考え方を持っていってしまうのならば、それは学習性無力感の特徴と言えます。学習性無力感は、自分の置かれた状況下において、一部分だけが無力であるという認識から、自分の行うあらゆる行動が無意味であるという飛躍した結論が生まれてしまう状態を指します。
努力というのは、指数関数的な成長となって現れてくることが知られています(詳しくは、学習心理学の書籍を参考のこと)。つまり、「幾ら努力しても成果として現れない」という状態がしばらく続いた後、突然、本人も驚くほどのスピードで成長し始めるわけです。
「駄目な奴が何をやっても駄目」なのではなく、下手に賢い人は、せっかくの努力が目に見える成果になる前に分かったつもりになって諦めてしまうのです。

[456] 設定温度さん、ご助言ありがとうございます。

おっしゃる通りかもしれません。
ただ、私の場合、英語に限らず、昔から何をやってもなかなか能力が伸びず、私も、周囲も首をひねっています。高校時代、担任の先生に「富氏君は、学力を身につけるのに人一倍時間がかかるタイプなんだから、それでいいんだよ」と言われて、楽な気持ちになったものです。
とはいえ、私は現在でも英語の勉強を毎日継続しています。私は常に何か自己研鑽に励んでいなければ気が済まない性格です。「自分はあまり才能がなさそうだから、勉強しても伸びないだろう」と思いつつも、「これで語学力が向上したらラッキーだ」というぐらいの感覚で続けています。

[576] 何をやっても駄目です

私は、何をやっても駄目な人間です。
人にもいわれます、「これで奮起しないなら、何をやっても駄目な人間だ。」、「そんなんじゃー何をやっても駄目だ」。
実際にやってみても、何をやっても駄目です。
私は、何をやっても駄目な人間です。

[577] コメントありがとうございます。

世の中には、センスのある人とない人がいるなあと思うことがあります。私などは、ほぼあらゆる分野において後者です。
自分の潜在可能性を引き出そうとして、敢えて背水の陣を敷いてみたこともありますが、結局可能性は引き出されないまま失敗に終わり、社会復帰が困難な状況にまで追い込まれてしまいました。
こうした人は、救いようがありません。

[578]

 富重さん、みなさんはじめまして。のりといいます。駄目かそうでないかってのは人の心が決めるものだから、もともと存在しないものだと思いますよ。存在しないので、駄目と思えば駄目になるし、駄目と思わなければ駄目になりません。人から駄目と言われたら、それは自分が駄目なんじゃなくて、言った人が駄目なんです。
 有名な話ですが、コップに水が入ってるとき、悲観的な人はコップに半分の水しか入ってないと言い、楽観的な人はコップに半分も水が入っていると言うそうですね。要は見方の問題であって、見方を変えれば駄目が駄目じゃなくなると思います。ちなみに、悲観的な人は水が全く入ってなかったらどうなのかと思うかもしれないけど、楽観的な人は空気がたくさん入ってるとか、空間がたくさんあって広々としている、と言うと思います。

 とにかく、駄目と思ってる人は、見方をすべて逆転させてみてください。駄目と気づいてる人は、駄目でないということを理解しるということですから、逆転させた時点で駄目でなくなります。

[579] のりさん、はじめまして。コメントありがとうございます。

>駄目かそうでないかってのは人の心が決めるものだから、もともと存在しないものだと思いますよ。

私は少し違った見方をしています。まず、「駄目」は物理的には存在しませんが、抽象的な考え方としては存在します。そして、駄目かそうでないかは、何らかの基準をもって判断されるものだと考えます。

基準といっても、「駄目」というのは日常的に使う言葉ですから、何も客観的具体的な数値基準が必要とまで言うつもりはありません。例えば、一定の作業をさせてミスの頻度が平均的な人の250%以上の人を駄目な人と定義するとか、そこまで厳密な話ではありません。

ただ、曖昧ですが、平均的な能力・実績と社会的に望ましい能力・実績というものがあって、それらを基準にしてみると、この人、大いに基準から逸脱しているなあと何となく思われた場合、その人は「駄目」と判断されるのではないかと私は考えています。

その人個人の見方で駄目かどうかが決まるというよりはむしろ、平均的な能力・実績と社会的に望ましい能力・実績、これらを基準に駄目かどうかが決まるのではないかと思います。

[582]

「評価」というのは、人間社会をおおう実にややこしい問題です。
大きくは、他者評価と自己評価の二つの面があり、二つがバランスしていれば、本人もハッピー、周囲もハッピー、世の中もハッピーなわけです。
評価と成長の良いサイクルとは、自分のしたことが、相手に喜ばれ、誉められ、張り合いが出てもっと頑張ると、ますます相手に喜ばれる。これは、まさしく人間社会の成功のパターンなわけです。
一方、逆に挫折し、くじけることを繰り返し、どんどん自信と実力を失っていくというのが人生の失敗のパターンです。
失敗がちな人生をどう建て直すか、それはメソッドはほぼ確立し、前世紀のアメリカを中心にさまざまなビジネスを生みました。基本にはアドラー心理学があると聞いたことがありますが、わたしには定かではありません。

[587] PCDさん、コメントありがとうございます。

なるほど、他者評価と自己評価ですね。私のコメントは他者評価に偏りすぎていたようです。
私に限って言うと、自己評価よりも他者評価の方がやや高い傾向にあります。他者から褒められると自己評価も高まりそうなものですが、私に限って言うと必ずしもそうでもありません。
アドラー心理学については、私も分からないので勉強したいと考えています。

[647]

私は、運動をいくらやっても出来ませんでした。でも、なぜ出来なかったのかというと、運動科学の本では、特定の体質の人間は運動をし過ぎると、筋肉が痩せてしまい運動能力が逆に低下すると書いてありました。つまり、努力というのは人それぞれに最適の形があり、その形が見つけられないと正しい結果に向かわない。つまり、結果が出ないという事になるのです。有能な人ほど、自分が成功した方法を他人に適用してみて、それが上手くいかないと業を煮やして、「なんで出来ないんだ」と言いたがりますが、実際には、人それぞれに正しい努力というものがあり、それがないと効果が上がらないという事はよくある事なのです。故に何をやっても駄目なのではなく、努力の方向が間違っていると考えられます。

[649] gari さん、コメントありがとうございます。

スポーツや学業、ビジネスなど、様々な領域で成功体験が語られていますが、そこから得られる教訓、ノウハウは必ずしも普遍性はありません。鋭いご指摘と感じました。
ただ、正しい努力をスムーズにできる人と、Plan-Do-Check-Action により努力の方法を何度改善してもなかなか上手くいかない人とがおり、どういう努力の方向が正しいのかを見極めるのも難しい問題だなと考えています。

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

Trackback

http://nhjournal.blog37.fc2.com/tb.php/219-37518608

«  | HOME |  »

最近のコメント


最近の記事


拍手、反響を頂いた記事

◇ 作業が人並みにこなせない−今年の課題
◇ うちの高校からニートは出さない
◇ 近視眼的なのか
◇ 「すべてのことを一変に解決する魔法はない」
◇ ひきこもり、ニート支援施設職員に知ってる人がいたら
◇ 私が持っていた仕事への意識(中3の頃)


最近のトラックバック

※ 私はトラックバックをいただいてもお礼は必要ないと考えているため、トラックバックのお礼に伺うことはありません。ご了承ください。

RSSフィード


Powered By FC2ブログ

Powered By FC2ブログ
ブログやるならFC2ブログ


プロフィール

富重

Author:富重
このブログは、ニート、ひきこもり等についての雑記です。

私自身、ニート、ひきこもり状態で、社会参加を目指して支援施設に通っています。

かくいう私も、ニート等については、まだまだ勉強中です。間違いがあれば、遠慮なくご指摘ください。

書籍へのリンクは、Amazon.co.jpアソシエイト を用いています。

前略プロフィールで私のプロフィールを公開しています。「こちら」

メールは nhjournal77@yahoo.co.jp まで。


このサイトについて

このサイトはリンクフリーです。張るのも剥がすのもご自由になさってください。相互リンクは現在募集しておりません。

携帯用アドレスを取得されたい方は、「こちら」をクリックしてください。

このブログのリンク先のご利用につきましては、ご自身の責任のもとでお願いします。なお、本等のリンクについては、Amazon.co.jpのアフィリエイトプログラムを導入しています。


カテゴリー


学校や幼稚園で話せない子

場面緘黙症(選択性緘黙)。自作YouTube動画です。
学校で話せない子


ブログ内検索


ブログランキング

人気ブログランキング

SEO対策:ニート

SEO対策:ひきこもり


カレンダー(月別)

01 ≪│2010/02│≫ 03
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 - - - - - -

ウェブリング

★ ひきこもりんぐ
〜社会になじめない人のためのサイトの集合体

ひきこもりんぐ
ひきこもり・ニートからの脱出
list next prev random home


リンク

[個人]

★ 緘黙の話
★ 元・ヒキニートの歩く道

[一般]

★ ひきこもり・ニートからの脱出
★ ニート・不登校・ひきこもり Next Vision Forum

[姉妹サイト]

★ ニートひきこもりJournal別館
★ 場面緘黙症Journal
★ 場面緘黙症Journal(ブログ)
★ ニート、アフィリエイトを学ぶ
★ 友達がいない子
★ ひきこもり英語ブログ
★ インターネット
★ 面白いホームページ
★ Selective Mutism - My Memories
★ Hikikomori - Social withdrawal in Japan


本など

「ニート」って言うな! (光文社新書)