ニート、ひきこもりは「異常」なのか-異常心理学の世界(2・完)

「ニート、ひきこもりは「異常」なのか-異常心理学の世界(1)」の続きです。

「異常」と「正常」の違いの基準は、いったい何なのでしょうか。引き続き、異常心理学の角度から迫ってみたいと思います。

◇ 社会規範

何をもって異常とするかは、社会規範によっても違うという考え方もポピュラーです。

社会規範基準のポイントは、行動が異常かどうかは、時代や国によって変わる可能性があるということです。

同性愛などは、その分かりやすい例です。現代日本では同性愛というと異常という見方が根強いですが、中世や近世ではどうだったでしょうか。戦国武将の男色は有名です。

それにしても、社会規範に合わないものを異常と断ずるのも乱暴なような気もします。社会規範が必ずしも正常とは限らないでしょう。

さて、社会規範基準から見ると、ニートやひきこもりはどうでしょうか。

すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。

(日本国憲法第27条第1項)

わが国の社会規範の一つの頂点とも言える日本国憲法は「勤労の義務」を規定しています。「働かざる者食うべからず」という考え方は根強いですし、勤勉を美徳とする風土がわが国にはあります。自宅にひきこもり続けることを、おかしなことと見る人も多いです。

現代日本の社会規範から言うと、ニートやひきこもりは異常なのだろうと私は思います(だから、これほど強く批難されているのでしょう)。

しかし、社会規範は時代によって変わりますし、社会規範が正しいとも必ずしも限りません。社会規範とは、そういうものです。 * * * * * * * * * *

◇ 本人が苦悩しているかどうか

本人が困っているかどうかということも、異常心理学では、異常の基準の1つとして考えられています。

例えば、特定の場面で話すことができない場面緘黙症の場合、本人が話せないことで困っているなら、異常ということになります。しかし、話せなくても生活に不自由することないから別にいいよ、と考える人がもしいたら、異常ではないことになります。

ニートやひきこもりの人たちには、現状に満足している人もいますが、実は「就職したい」と考えている人も多いという調査結果がいくつかあります。内閣府や埼玉県、NHKなど、様々な調査結果がありますが、私の知る限り、どれも、少なくとも半数以上のニートやひきこもりが就労を希望していることが読み取れます。

苦悩基準では、「働いたら負けかな」と考えているニートは正常。「働きたいけど踏み出せない」というニートは異常ということになります。個人的に、ちょっと納得がいきません。

◇ 社会に適応しているかどうか

社会に適応できているかどうか、という基準も異常心理学のテキストでは頻出です。

与えられた環境のもとで、人間関係をうまく築いているか、本人の目標を達成することができているか、ということが問題になります。

ニートやひきこもりの人たちには、社会に適応できている人が少なさそうです。

■ 異常はなぜ修正されるべきか

以上、異常の基準を4つ上げてみました。この他にも、異常心理学では、様々な基準が考えられています。

このような議論は、異常はなぜ正されるべきか、治されるべきかという問いに対する答えも与えてくれます(妥当かどうかはともかく)。

○ 統計基準:統計的に稀だから正せ
○ 社会規範基準:社会規範から逸脱しているから正せ
○ 苦悩基準:本人が苦悩しているから正せ
○ 適応基準:社会に適応できていないから正せ

考えてみれば、私がニートやひきこもりで苦しんでいる人たちに、カウンセリングなり何なりをすすめているのは、本人が苦悩しているから、困っているから、変わりたいと思っているからにほかなりません。

■ 「異常心理学」という名称

それにしても、「異常」という表現には、疑問を感じます。

「異常心理学」は結局、精神疾患を「異常」と考えるわけですが、「障害(障碍)は個性」という考え方もある現代で、これはどうでしょうか。

異常心理学をベースにセラピーを行うのが臨床心理士というのが私の理解ですが、「異常心理学者や臨床心理士って、精神疾患を持つ人々のことを『個性』ではなく『異常』とみなし、それを『正常』な方向に持っていくのが仕事なんだな!」などと私は考えてしまいました。


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(最後まで読んでくださり、ありがとうございました。)


[参考にしたもの]

◇ Cardwell, M. & Flanagan, C. (2003). Angels on psychology: Companion volume. Cheltenham: Nelson Thornes.
◇ Eysenck, M. (1994). Individual differences normal abnormal. Hove: Psychology Pr.
◇ Turner, L. (2003).Advanced psychology: Atypical behaviour. London: A Hodder Arnold Publication.
◇ リタ・L. アトキンソン、エドワード・E. スミス、スーザン ノーレン‐ホークセマ、チャード・C. アトキンソン、ダリル・J. ベム著、内田一成訳、『ヒルガードの心理学』ブレーン出版、2002年。
◇ Spoor, K. (1999). A beginner's guide to abnormal psychology. Retrieved October 24, 2006, from
http://www.purgatory.net/merits/index.htm



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