正しい診断よりも、お金が大事な医師

医療の世界も、経済や経営と切り離して考えることはできません。赤字が累積したり資金繰りが悪化したりすると、病院や診療所はつぶれてしまいます。

こうなると、正しい診断よりも利潤の追求を優先する医師が現れるかもしれません。どうするかというと、必要以上に治療を受けさせるわけです。例えば、本当は薬など必要ない患者に、「薬飲まないと大変なことになりますよ~」と嘘をついて薬を処方し、稼ぐということです(薬価差益が大きかった時代に、「薬漬け」が問題になりました)。

なんだ、このブログの管理者は、医師の方にずいぶんと失礼なことを言っているな!とお怒りになった方もいらっしゃるかもしれません。しかし、これは、「供給者誘発需要仮説」または「医師誘発需要仮説」と呼ばれる、医療経済学の重要な論点です。

■ 情報の格差

医師と患者の間には情報量に格差があります(情報の非対称性)。

医師は病気やその治療法については大変精通しています。しかし、患者はそうではありません。患者は医師の言うことに大人しく従うほかないのです。医師は嘘をついても患者にはばれにくいですから、自分の利益にかなうように患者を誘導したいと考えても不思議ではありません。 * * * * * * * * * *

■ 供給者誘発需要は、医療サービスの価格にも影響を与える

供給者誘発需要は、医療サービスの量だけでなく、価格にも影響を与えると考えられています。
供給者誘発需要
上の図は、中学や高校の社会科で習った、懐かしい(思い出したくもない)需要曲線(DD)と供給曲線(SS)です。ここでは、医療サービス市場の需要と供給を表しています。

需要曲線と供給曲線の最初の位置はそれぞれD1D1とS1S1です。価格は二つの曲線の交点P1の水準になります。

ここで、医師が患者をだまして必要以上に治療を行うと、どうなるでしょうか。

供給曲線はS1S1からS2S2に移動します。

一方、患者も医師にだまされて必要以上に医療サービスを受けるわけですから、需要曲線も移動します。需要曲線がD2D2に移動した場合、価格はP2の水準で決まり、もとの価格P1よりも低くなります。しかし、需要曲線がD3D3にまで移動した場合、価格はP3の水準で決まり、当初の価格P1よりも高くなってしまいます。

供給者誘発需要は、市場原理にゆだねても医療サービスの量と価格が適切な水準に落ち着かない「市場の失敗」の一例です。

■ 実証分析の数々

こうした現象が現実に起きているかどうか、経済学者の間で実証分析が熱心に行われています。別に医師のあらさがしをしようというわけではありません。経済学者の関心はむしろ、医療サービス市場で資源配分に歪みはないかという点にあるのではないかと思います。

実証分析は日本でも行われており、インターネットで検索しただけでも、見つかります。関心のある方は検索エンジンで「供給者誘発需要」「医師誘発需要」と検索されるといいでしょう。

■ 自分が必要としている治療を正しく理解していない患者

しかし、次のようなケースはどうでしょうか。

例えば、鬱による自殺を防ぐために、医師が鬱の人たちに「鬱は怠けじゃない。心の風邪」として精神科や心療内科に行くよう呼びかけ、その結果、鬱の人が精神科なり診療内科なりを受診する…

これも供給者誘発需要と言っていいのかどうか分かりませんが、情報豊富な医師が潜在的な患者を説得し、需要を生み出していることには違いありません。患者に医学的な知識がなく、自分が必要としている治療を正しく理解していないことから、このようなことが起ります(これまた、情報の非対称性)。

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[参考にしたもの]

◇ McConnell, R. C., Brue, L. S. and Campbell, R. (2005). Microeconomics: Principles, problems, and policies. New York: McGraw-Hill. 434.
◇ McGuire, A., Henderson, J., and Mooney, G. (2000). Economics of health care: An introductory text. 160-163. Routledge.
◇ McPake, B., Kumaranayake, L. and Normand, C. (2002). Health economics: An international perspective. 50-52. Routledge.



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