義務教育の根拠

すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。

(日本国憲法第26条第2項)

日本の義務教育は、「教育を受ける義務」ではありません。「教育を受けさせる義務」といった方が適切です。

それにしても、どうして義務教育というものがあるのでしょうか。義務教育には消費者の選択の自由がなく、消費者主権に反しています。

親の中には、こういう人もいるかもしれません。

「息子には将来家業を継いで欲しいと思っている。息子もそのつもりだ。しかし、普通教育で学ぶ内容には仕事には役に立たないものが多い。自分の息子は、学校ではなく、私自身の手でみっちり育て上げたい」

しかし、このようなことは許されません。

このように、個人の自由に制限をかけてまで義務教育を行う根拠はどこにあるのでしょうか。経済学的に考えてみます(たぶん以下の説明で合ってると思うのですが、間違いがあったらご指摘ください (>_<))。

■ 普通教育を受けるのは、社会的に望ましい

その根拠は、子供が普通教育を受けることは社会的に望ましいと考えられることです。要するに、普通教育を受けるのはいいことじゃないか、という結構単純な根拠です。このため、国民に普通教育を受けさせるよう義務付けよう、ということになります。[1] * * * * * * * * * *

◇ みなさん、シートベルトしてます?

シートベルトの着用が法律で義務付けられているのも、似たような根拠からです(最近は、後部座席に座っている人も、義務化されたんでしたっけ)。シートベルトをせずに事故を起こして大怪我をするのは良くないことだから、わざわざ政府が道路交通法で義務化してくれているのです。

もっとも、そんなの余計なお世話だ、自己責任のもとで、シートベルトをせずに快適に運転する自由があってもいいのではないかと考える人もいるかもしれません。

麻薬や売春・買春が法律で禁止されているのも、同じ根拠からです。社会的に望ましくない、良くないからです。

◇ 教育が持つ公共的な性格

義務教育には公共的な性格があります。子供が普通教育を受けるか受けないかは、その子本人だけの問題ではありません。教育の便益と費用は、その子以外の人にも関わってきます。[2]

例えば、教育を受けると、労働生産性が上昇するという考え方があります。労働生産性の増加は、経済成長率の増加に寄与します。

経済成長率=労働人口増加率+資本ストック増加率+技術進歩率(労働生産性も関係)

ですから、「教育を受ける受けないなんて、個人の自由じゃないか」と言って義務教育を受けない子供が増えると、後々、日本の経済成長に何らかの影響が出てくるかもしれません。これは、みんなが困ります。

他にも、初等教育が満足になされないと、社会に様々な不利益をもたらす可能性が考えられます。

◇ どこまで政府が介入してよいか

政府がどこまで個人の自由を制約してよいかは、難しい問題です。

社会的に望ましいものは何でも政府が強制していいというのなら、例えば毎日野菜を食べて運動をして健康な体作りを心がけるとか、そうしたことも法律で義務化していいではないか、という話にもなりかねません。そこまで政府が個人の生活に立ち入ることは許されるのでしょうか。

かといって、義務教育も、何もかも自由化してしまえばよいというのも、どうかなと思えます。

「社会的に望ましいもの」とはいったい何か、というのもまた難しい問題です。なにしろ、価値判断の世界です。国民の総意によるのが望ましい…?のでしょう。

■ むすび

義務教育の根拠は、経済学的に言えば、要するに普通教育を受けるのはいいことだから、という結構単純なものでした。

[注]

[1] こうした理由で、民間でも供給できるにも関わらず、政府によって供給される財・サービスのことを「価値財(メリット財)」と言います。医療、福祉なども価値財の例です。また、義務教育のように、わざわざ政府がまるで我々の親であるかのようにお節介をすることを、「パターナリズム(温情主義、親権主義)」と言います。

[2] この種の財を、「公共財」と言います。その経済学的な定義は、「非排除性」と「非競合性」という性質を持った財・サービスであるということです。

「非排除性」とは、特定の個人を、その財・サービスの消費から排除することはできないという性質です。例えば、税金を払っていない人を、警察サービスから排除することはできません。警察の活動によって治安がよくなると、みんなが利益を受けます。他方、「非競合性」とは、ある個人がその財・サービスを消費しても、他の個人の消費量が減ることはないという性質です。例えば、船乗りのAさんが灯台の光に当たっても、別の船乗りのBさんが灯台の光に当たれなくなるということはありません(でも場合によってはあるかな…?)。

なお、「公共財」の対義語は「私的財」。両者の中間は「準公共財」または「混合財」。教育は公共財というよりは、準公共財かな。価値財は準公共財です。



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