勤労の義務

[日本国憲法27条1項]

すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。

国民の3大義務の一つと言われる、勤労の義務の規定です。今回はこれについて、まとめます。私は法律の専門家ではないのですが、私自身の勉強も兼ねて。

■ 日本国憲法における勤労の義務

◇ 勤労の義務は、明治憲法にはなかった

実は勤労の義務は、戦後、日本国憲法で新たに国民に課されたものです。明治憲法には勤労の義務の規定はありませんでした(ただし、兵役の義務がありました)。

◇ 勤労の義務は、衆議院の修正で加えられた

中村睦男氏によると、勤労の義務は、衆議院の修正で加えられたものだそうです(中村, 1997)。

衆議院での審議過程に興味のある方は、「国会会議録検索システム」ウェブサイトの「帝国議会会議録検索システム」のコーナーで「勤労の義務」などと検索してみるとよいでしょう。

国会会議録検索システム
(新しいウィンドウで開く)

◇ 勤労の義務の解釈

日本国憲法は、財産権(29条)と、職業選択の自由(22条)を保障しています。つまり、資本主義体制です。このため、日本国憲法での勤労の義務は、旧社会主義国の憲法(後述)で見られるような「働かざる者、食うべからず」とは意味が異なるという解釈で学説は一致しています。

従来の通説では、勤労の義務は道徳的義務を示すにとどまるとするものでした。しかし、今日では、働く能力があり、なおかつその機会があるにもかかわらず働こうとしない者には、生存権や労働権の保障が及ばないという限りで、法的意味を持つものと解するのが多数説です。

例えば、次のような規定があります。

[生活保護法4条1項] * * * * * * * * * *

保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。

[雇用保険法32条1項]

受給資格者(訓練延長給付、広域延長給付又は全国延長給付を受けている者を除く。以下この条において同じ。)が、公共職業安定所の紹介する職業に就くこと又は公共職業安定所長の指示した公共職業訓練等を受けることを拒んだときは、その拒んだ日から起算して1箇月間は、基本手当を支給しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。(以下、略します)

[雇用保険法32条2項]

受給資格者が、正当な理由がなく、厚生労働大臣の定める基準に従つて公共職業安定所が行うその者の再就職を促進するために必要な職業指導を受けることを拒んだときは、その拒んだ日から起算して1箇月を超えない範囲内において公共職業安定所長の定める期間は、基本手当を支給しない。

■ ワイマール憲法における勤労の義務

資本主義国家で勤労の義務を最初に定めた憲法は、1919年ドイツ国憲法、いわゆるワイマール憲法です。163条に、次の規定があります。

[ワイマール憲法163条]

すべてドイツ国民は、個人の自由を侵害することなく、その精神的および肉体的力を、公共の福祉が求めるように用いる道徳的義務を負う。

Jeder Deutsche hat, unbeschadet seiner persönlichen Freiheit, die sittliche Pflicht, seine geistigen und körperlichen Kräfte so zu betätigen. wie es das Wohl der Gesamtheit erfordert.

「道徳的義務」というのがポイントだろうと思います。国家が国民に労働を強制はせず、道徳的義務にとどまるということです。

■ 旧社会主義国における勤労の義務

勤労の義務は、旧社会主義国の憲法にも規定がありました。なんだか、もっとものように思えます。その中でもわりとよく知られているのは、1936年ソ連憲法、いわゆるスターリン憲法ではないかと思います。

[スターリン憲法12条]

ソ連においては、勤労は、「働かざる者食うべからず」の原則に則り、全ての労働可能な市民の義務であり、名誉である。

Труд в СССР является обязанностью и делом чести каждого способного к труду гражданина по принципу: «кто неработает, тот не ест».

「働かざる者食うべからず」という言葉が憲法上に登場するとは、驚きました。

[関連記事]

◇ 不登校は就学義務違反か

[参考にした文献]

物理的な事情で、あまり多くの文献に目を通すことができませんでした。

◇ 上田正一(2005)『日本国憲法』、高文堂出版社。
◇ 圓谷勝男(1990)『日本国憲法概説』、高文堂出版社。
◇ 中村睦男(1997)「第27条[勤労の権利義務、勤労条件の基準、児童酷使の禁止]」樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂(編)『憲法Ⅱ』(pp. 188-196)、青林書院。
◇ 松井茂記(2002)『日本国憲法』第2版、有斐閣。



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