緘黙は「不登校・ニート・ひきこもりとの関連が深い精神疾患」なのか

今年3月に出た厚生労働科学研究「思春期ひきこもりに対する評価・援助のためのガイドライン(案)」では、「不登校・ニート・ひきこもりとの関連が深い精神疾患」の一つに「緘黙」が挙げられています。

緘黙とは、器質的障害はないものの、心因的なもので、特定の場面で話すことができない状態のことです。引っ込み思案が度を超したものと思っていただければ、分かりやすいと思います。「場面緘黙症」「選択性緘黙」などとも呼ばれます。不安障害の一つであるとか、社会不安障害の一つであるとかいう説もありますが、この点はまだ議論の最中です。緘黙は子どもに多く見られます。

冒頭でお話したように、ガイドライン(案)では、緘黙は「不登校・ニート・ひきこもりとの関連が深い精神疾患」とされていますが、実はその証拠は乏しいです。ですが、私見ですが、それは緘黙に関する調査研究が十分に行われていないからであって、関連を疑うぐらいの姿勢は持っていてもよいのではないかと思います。私は専門家ではありませんが、姉妹サイト「場面緘黙症Journal」の宣伝や緘黙の啓発の目的も兼ねて、お話します。 * * * * * * * * * *

○ 不登校と緘黙

不登校と緘黙については古くから論じられてきたのですが、緘黙の子は不登校はしないというのが基本的特徴であるということで、文献の見解は概ね一致しています(十亀, 1973; 大井ら, 1979; 相場, 1989; 河井ら, 1994)。

ただし、以下は私見ですが、「不登校はしない」と言っても、その論拠となる文献はかなり古いものです。加えて、緘黙児に不登校児童生徒がどれほどの割合いるかを調べた統計的調査はほとんど存在せず、実際のところ、現代の緘黙児に本当に不登校児童生徒が少ないかどうかは、はっきりしたところは分かりません。

不登校緘黙児の事例の報告はいくつもありますし、ネット上では不登校の経験者を見かけることは多いです。かといって、これをもって、不登校の緘黙児が多いと断定することもできないだろうと思うのですが、緘黙児にも不登校はあり得るというぐらいの認識なら持っていても良いのではないかと思います。

○ ニート、ひきこもりと緘黙

ニート、ひきこもりと緘黙については、私の知る限りこれまで文献上で論じられたことがなく、これに関連する実態調査もほとんどありません。

特にニートというと、15~34歳の無業者のことを言う場合が多いですが、文献で扱われている緘黙児の多くは、それ以下の年齢の子どもたちです。

幼い緘黙児たちが、一般に社会的自立を求められる年齢になって、緘黙症状がどのように変化しているか、社会適応できているかどうかについては、これまたほとんど調査が行われておらず、よく分かりません。

これまでに行われた数少ない予後調査では、成人する頃には概して緘黙症状は改善しているものの、何らかの精神疾患を持っていたり、コミュニケーション上の問題を抱えていたりする人が少なくないことが分かっています(Remschmidt ら, 2001; Steinhausen ら, 2006)。これはニート、ひきこもり化の一因になり得るのではないかと私は思います。Steinhausen らも、Remschmidt らの調査結果を引用しながら、緘黙経験者で失業している者の割合が高い可能性を示唆しています(Steinhausen ら, 2006)。実際のところ、その数は定かではないものの、緘黙症状が成人年齢に達しても治らず、ニート、ひきこもり状態を余儀なくされている人は存在するようで、文献上でもそうした例を確認することもできます(例えば Sage ら, 2009)。

■ むすび

緘黙を、不登校・ニート・ひきこもりと「関連が深い」と言うには証拠が不十分ですが、関連を疑うぐらいの姿勢は持っていてもよさそうだとは思います。

[文献]

◇ 相場壽明 (1989) 選択性緘黙の理解と治療-わが国の最近10年間の個別事例研究を中心に-『特殊教育学研究』 29, 53-59。
◇ 河井芳文、河井英子 (1994) 『場面緘黙児の心理と指導-担任と父母の協力のために-』田研出版。
◇ 大井正己、鈴木国夫、玉木英雄、森正彦,、吉田耕治、山本秀人、味岡三幸、川口まさ子 (1979)児童期の選択緘黙についての一考察『精神神経学雑誌』 81(6), 365-389。
◇ Remschmidt, H., Poller, M., Herpertz-Dahlmann, B., Hennighausen, K., & Gutenbrunner, C. (2001). A follow-up study of 45 patients with elective mutism. European Archives of Psychiatry and Clinical Neuroscience, 251(6), 284-296.
◇ Sage, R. and Sluckin, A. (Eds.). (2009). 『場面緘黙へのアプローチ-家庭と学校での取り組み-』 (杉山信作、かんもくネット訳). 田研出版. (Original work published 2004)
◇ 十亀史郎 (1973)『自閉症児・緘黙児』黎明書房。
◇ Steinhausen, H.C., Wachter, M., Laimbock, K., & Metzke, C.W. (2006). A long-term outcome study of selective mutism in childhood. Journal of Child Psychology and Psychiatry, 47(7), 751-756.



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