時給いくらなら働きます-留保賃金

時給1億円で、普通の人なら概ねこなせる仕事が仮にあるとします。その仕事をニートの人に紹介したら、ニートの人は働き出すだろうかという、たわけた事を考えたことがあります。

経済学に、「留保賃金」という専門用語があるそうです。最低これだけの賃金なら働き出すという賃金水準のことです。例えば、時給700円なら働かないけれど800円以上なら働くという人の場合、その人の留保賃金は時給に換算すると800円ということになります。賃金が留保賃金以下の水準だと、働いて得られる満足よりも不満足の方が上回ると労働者は考え、働かないという選択をするわけです。労働者は自分の満足度を最大化するよう合理的な選択を行うという仮定が、背後にあるようです(以上、間違ってたらスミマセン)。

この「留保賃金」をかぎにニートを考えると、ニートは、留保賃金が高い若者と見ることができます。実際、「NEET や失業者が就業しない理由の1つは、彼らの留保賃金が就業者に比べて高いことにある」とする研究者もいます(篠、2004)。

ニートの若者にボランティア体験をさせようという試みがなされることがありますが(私も紹介されたことがあります)、ボランティアに携わる人は賃金ゼロで働いているわけですから、留保賃金がゼロの人と考えてよいのでしょうか。だとすると、ボランティアの人は、ニートの人とは対極にあるということになります。

ただ、よく分からないのですが、このように留保賃金をかぎにニートを考えるのには、限界もあるのではないかと私などは素朴な疑問を感じています。ニート状態にある人に求職活動をしない理由を尋ねた調査結果を見ると、上位に挙がった理由は、病気やけがのためだとか、自信がないためといったものです(例えば、小杉ら2009、UFJ総研2003)。留保賃金という考え方の背後には、労働者がどれだけの時間働くかを自分の満足度を最大化するよう合理的に選択するという仮定があるようですが、ニートの人には、こうした合理的な選択以前の問題を抱えた人が少なくないのではないかと私には思えてなりません。

時給1億円でニートは働くかどうかという、自分で自分に出した問題が「たわけた事」と私が感じるのも、このあたりのところが理由です(時給1億円という条件も、たわけていると感じる理由の一つですが)。

[文献]

◇ 小杉礼子、木村祐子(2009)「若年者の就業状況・キャリア・職業能力開発の現状―平成19年版『就業構造基本調査』特別集計より」http://www.jil.go.jp/institute/chosa/2009/09-061.htm
◇ 篠武久(2004)「非就業・非在学・非求職中の若年無業者(NEET)に関する一考察―日本版総合社会調査(JGSS)から見るNEET、失業者、就業者の比較」『日本版 General Social Surveys 研究論文集 [3] JGSSで見た日本人の意識と行動』、121-134ページ。
◇ (株)UFJ総合研究所(2003)「若年者のキャリア支援に関する実態調査」よくないことですが、以下からの再引用です。厚生労働省(編)(2005)「平成17年版労働経済の分析」http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/05/index.html

[その他参考にしたもの]

◇ 金森久雄、荒憲治郎、森口親司(編)(2002)『有斐閣経済辞典』第4版、有斐閣。

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