ひきこもりと精神疾患の報道

[追記(2010年5月22日)]

厚生労働省のHPに、ひきこもりの新ガイドラインのページができました。ここで取り上げたひきこもりと精神疾患の関係の研究等も、そもそもこのガイドラインを作成するために行われたものです。

↓ 厚労省HPへのリンク

「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」の公表について
(新しいウィンドウで開く)

* * * * * * * * * *

厚生労働省のひきこもり研究班による最終報告がついに出たようで、メディアが相次いで報じています。

Googleニュースで「ひきこもり 厚生労働省」と検索
(新しいウィンドウで開く

これについては、ネット上でも既に反響があります。特に、ひきこもりと精神疾患との関連に関する報道が、反響を呼んでいます。

これについて、少し思ったところを書きます。なお、私は今回の最終報告そのものはまだ読んでいないので(過去2年の報告は読んだのですが)、あまり大きなことは言えません。

■ 研究の概要

まず、この厚労省のひきこもり研究班による報告は、ひきこもり支援の新たな治療援助システムを開発するために、3年計画で進められてきたものです。名称は、「思春期のひきこもりをもたらす精神科疾患の実態把握と精神医学的治療・援助システムの構築に関する研究」といいます。主任研究者は、国立国際医療研究センター国府台病院の齊藤万比古(さいとう・かずひこ)氏です。

報告は、2008年3月、2009年3月に、既に2度出ています。これらについては、このブログでも過去に取り上げています。

2008年3月報告分に関する記事(新しいウィンドウで開く)
2009年3月報告分に関する記事(新しいウィンドウで開く)

今回公表された研究結果のうち、特にメディアで報じられたひきこもりと精神疾患との関連を示す研究報告については、おそらく精神保健福祉センターの所長など行った分担研究の報告の一つではないかと思います。報道や過去2回の研究報告から、そう推測できます。

「厚労省の役人がこの報告をまとめた」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、分担報告の研究自体は精神保健福祉センターの所長などが行ったものです。

■ ひきこもり者も、精神保健福祉センターに行く * * * * * * * * * *

「ひきこもりが、精神保健福祉センターに行くわけがないではないか。この報告おかしい」

と思われる方もいらっしゃるかもしれません。ひきこもりというと、自宅から一歩も外に出ない状態を想像する人は少なくなさそうです。これは、ひきこもりの定義の問題です。

過去2年の報告では、ひきこもりは次のように定義されています。2月19日に東京大学安田講堂で開かれた公開講座「ひきこもりを考える」の内容から判断しても、下記の定義は今回の最終報告でも踏襲されているものと思われます。

「様々な要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学、非常勤職を含む就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的には 6ヵ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)を指す現象概念である。なお、ひきこもりは原則として統合失調症の陽性あるいは陰性症状に基づくひきこもり状態とは一線を画した非精神病性の現象とするが 、実際には確定診断がなされる前の統合失調症が含まれている可能性は低くないことに留意すべきである」

外出するかどうかは、定義上、あまり大きな問題ではありません。過去の報告では、家族だけでなく本人も、精神保健福祉センターに来談するケースも多いことが明らかになっています。ところが、一部メディアはこれと違った報道をしており、私は首をひねっているところです。私が間違っているのか、メディアが間違っているのか。

■ 精神保健福祉センターに来談しないひきこもり者もいる

今回の研究で明らかになったひきこもり者の実態は、精神保健福祉センターに来談した例をもとにしたものです。しかし、来談しないひきこもり者もいます。ですから、今回の研究報告をもとに、「そうか、ひきこもりの人って、こういう人たちなんだ」などとひきこもり者一般について考えるには、留保が必要ではないかと思います。

■ 精神疾患は、ひきこもりの原因か結果か

精神疾患が原因でひきこもりになったのでしょうか、それとも、ひきこもりの結果として精神疾患になったのでしょうか。過去2年の研究では前者の可能性が支持されたのですが、3年目の研究ではどうだったのか、メディアの報道だけでは分かりません。このあたりも取り上げられればなおよかったのですが、最終報告では言及はなかったのでしょうか?


何はともあれ、私は3年目の研究報告の本文を読んでいないので、何か誤解があるかもしれません。メディアの報道で理解したつもりでも、一次情報に接してみたら誤解があった、こうしたことはあるので注意したいところです。

[文献]

◇ 近藤直司, 宮沢久江, 境泉洋, 清田吉和, 北端裕司, 黒田安計, 黒澤美枝, 宮田量治. (2009)「思春期ひきこもりにおける精神医学的障害の実態把握に関する研究」『思春期のひきこもりをもたらす精神科疾患の実態把握と精神医学的治療・援助システムの構築に関する研究』(pp. 63-77). 厚生労働省科学研究費補助金こころの健康科学研究事業平成20年度総括・分担研究報告書.

◇ 近藤直司, 宮沢久江, 境泉洋, 清田吉和, 北端裕司, 黒田安計, 黒澤美枝, 宮田量治. (2008)「思春期ひきこもりにおける精神医学的障害の実態把握に関する研究」 『思春期のひきこもりをもたらす精神科疾患の実態把握と精神医学的治療・援助システムの構築に関する研究』 (pp. 49-63)厚生労働省科学研究費補助金こころの健康科学研究事業平成19年度総括・分担研究報告書.


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