ひきこもり360万人か、最低26万世帯か

ひきこもりの人が全国に推計360万人いるらしいという話を初めて聞いたときは驚きました。360万人という数字は初めて聞くものでしたし、平均的な都道府県の人口よりも多いべらぼうな数字です。

この数字はネット上でも広まっていますが、果たしてこの情報の出所はどこなのでしょうか。そして、どういう方法で推計が行われたのでしょうか。

Google や Goole ブックス(書籍検索サイト)、Google Scholar(学術資料検索サイト)で「ひきこもり "360万人"」と調べたのですが、この中でひきこもり360万人説がヒットしたのは、Google だけでした。それも2010年の情報に集中しています。

さらに詳しく調べたところ、2010年2月5日に『朝日新聞』電子版で報道された、原口一博総務相の自殺総合対策会議での発言がこの情報の出所とみられました(『うつ』『ひきこもり』, 2010)。原口総務相は、同日、総務省での記者会見においてこのような発言もしています(原口総務大臣, 2010)。

* 以下引用 *

そういう中で、私たちは亡くなりました山本孝史議員を中心にがん基本法というのをつくらせていただきましたが、うつ、それからひきこもり、これはNPOの調査によると360万人いらっしゃる。この数字は政府として確認をした数字ではありませんけれども、平均年齢が32歳であるという報告を受けています。

* 引用終わり *

どうやら原口総務相は、NPOの調査をもとに360万人と発言したようです。しかし、このNPOというのが具体的にどこかは分かりません。ひきこもりのNPOというと、唯一の全国組織で政治への働きかけも行っている「全国引きこもりKHJ親の会」が、私などは真っ先に思い浮かびます。しかし、このNPOが360万人という推計を発表したという話は、少なくとも私は聞いたことがありません。ほかのNPOなのかもしれませんが、どこかは分かりませんでした。

結局、360万人説の根拠は、今のところ私にはよく分かりません。中途半端なところまでしか突き止めることができませんでした。

■ 255,510万世帯以上説が、最も信頼性が高い?

先月に発表された「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」では、255,510世帯という推計値が「現在のところ最も信頼性の高い」として紹介されています(斉藤ら, 2010)。むしろこの推計値を信頼した方がよさそうにも思えてきます。ただし、この数字は、「おそらくこれは推定値としては最小限のものと思われます」とのこと。実際はそれ以上いるだろうとのことです。 * * * * * * * * * *

この推計は、世界精神保健(WMH)調査の一環として、20歳以上を対象にひきこもりの疫学調査を行った平成16年から3年間の厚生労働科学研究「こころの健康についての疫学調査に関する研究(主任研究者:川上憲人東大教授)」の結果です(川上ら, 2007)。

調査対象者を全国いくつかの地域で無作為抽出し、戸別訪問などの方法で調査を行っています。

この調査に協力した住民は4,134人(55.1%)でした。半数近くの世帯が調査に協力していません。報告は「現在または過去に『ひきこもり』を経験した者や世帯に現在『ひきこもり』の者が存在する者の、調査への協力率が低い可能性があり、本研究において示された『ひきこもり』経験率および『ひきこもり』のいる世帯の推定値は『低め』に見積もられたものであると言わなければならないだろう」としています。先ほどお話したとおり、255,510世帯が下限値とされるのは、これゆえです。これには私も全く同感です。我が家にこうした調査員が来たら、我が家の場合、まず協力しないでしょう。

最も信頼性が高いとも言われる255,510世帯という推計値でも、「『低め』に見積もられたもの」ですから、ある意味信頼できません。結局のところ、ひきこもり者は全国にどれだけいるのか、分からなくなってしまいます。ひきこもり人口の推計は、それだけ難しいのでしょう。

■ むすび

ひきこもりの人は全国に何人いるという話になったとき、私はWMH日本調査を引き合いに出して、「最低26万世帯ぐらい」とお話しすることにしています。ひきこもりのガイドラインが「最も信頼性が高い」としているので、とりあえずこれを優先的に紹介します。ただ、26万というのはおそらく下限値ですから、この数字自体にあまり信頼は置いていません。一方、360万人という数字は、「出所は私にはよく分からないが、こういう推計値もあるという話が広まっている」という紹介の仕方をしています。結局、ひきこもり者は全国にどれだけいるのか、はっきりしたことは私には分かりません。

[文献]

◇ 「『うつ』『ひきこもり』に対策法 総務相が制定提言」(2010年2月5日)『朝日新聞』http://www.asahi.com/national/update/0205/TKY201002050520.html
◇ 川上憲人ら(2007)「地域疫学調査による『ひきこもり』の実態と精神医学的診断について-平成14年度~平成17年度のまとめ-」『こころの健康についての疫学調査に関する研究』(119-127ページ)http://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.dohttp://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do
◇ 齊藤万比古ら(2010)「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」http://www.ncgmkohnodai.go.jp/pdf/jidouseishin/guideline100520.pdf
◇ 「原口総務大臣閣議後記者会見の概要」(2010年2月5日)http://www.soumu.go.jp/menu_news/kaiken/02koho01_000085.html 最終アクセス2010年6月25日


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